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騎士の本分
~Devoir de chevalier~

「フィエリト様」

 名前を呼ばれて振り返ると、目つきの悪い青年が佇んでいた。まだ年若い執事であるが、年齢が近いからか国王の話し相手になっているとも聞く。

「何だ」

「お母上がお見えです。至急、応接間にお向かい下さいませ」

 眉間に皺が寄る感覚があった。
 用件は何となく察しがついている。おそらくまた縁談の話だろう。
 深く溜め息を吐いた私に、青年は真っ直ぐな視線を向けた。いい目だと思った。これが軍人の目ならば、鍛え抜いてやっただろうに。

「わかった。すぐに向かう」

 手を翳して歩き出すと、青年は深々と頭を下げた。
 私の家は、代々軍人の家系である。近衛兵の任を仰せつかる事も少ない事例ではないのだという。現に、私の父は現在近衛兵長として国王の身を守っておられる。
 私に与えられた命は、国王を守る事。それに全てを懸けたかったがそうはいかない。私には、兄弟がいない。結婚し、子を成し、騎士の名を継ぐ者として育てなければならない。それも分かっているのだが。

「どうにも、女は苦手だ……」

 くしゃりと髪を掻き、息を吐いた。
 接触がなかったから扱いがわからないとか、そういった話ではおそらくないと思うのだが。自分はそんなに好みにうるさかったろうかと自問する。
 見合いの話はずっと持ちかけられてきた。その度、己の未熟さを理由に断ってきた。守るべきものが多すぎる。それに対して、自分の力は足りないのだと思っていた。それは、今でも変わっていない。
 それに、今見合いを受けるには不都合な事情が出来た。
 徴兵による、軍の再編。近々大きな戦いが起こるという予兆。隊を率いる者として、不在や意識を外す事の許されない状況。故に、浮いた話は出来ない。
 国を守ること。王を守ること。それこそが、騎士の本分なのだと。
 そう、母には伝えよう。
 一つ、大きな息を吐き、応接間の扉を叩いた。