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金色の時計
~Regardez d’or~

 町に粉を売りに出た時に見つけた時計。葡萄を描いたそれが妙に気になって、つい、手に取ってしまった。

「……で? 買ってきたんですか?」

「すまん! この通り!」

 家に帰って妻に話したら、案の定呆れたような声が返ってきた。怒られる、よりも呆れられる方が堪えるのは、彼女が普段とても穏やかだから。もうかれこれ二十五年は連れ添って来たが、烈火の如く怒るような彼女は見たことがない。勢いよく手を合わせ、謝ってはみるものの、大抵眉を寄せ、呆れ顔を見せてから口を聞いてくれなくなる。

「全く……あんまり豊かな暮らしでもないんですよ?」

「わかってる! けど、この細工見てたら、その……」

 改めて、時計に施された細工を見る。撓わに実った葡萄が二房、寄り添うように浮き上がっている。周りに刻まれた蔦がそれを取り囲むように這う。

「お前を、思い出してな……」

「まぁ……」

 家の横には、葡萄の樹がある。息子が生まれた時に植えたものだが、今でも季節になると葡萄は実る。収穫する時の、妻の笑顔と言ったら、もう。

「だから、その……」

「仕方ありませんねぇ」

 時計の鎖が鳴る。顔を上げれば目の前に差し出された時計と、困ったような妻の笑み。

「大事になさって下さいね?」

 つまり、どうしようもなく妻に惚れているのだ。