「さみー……」
ふるりと体を震わせる。
風月に移ろうとはしているが、まだまだ冬の最中。顔を洗う水も冷たい。
「おはよう、ユアン」
「あ、ああ! おはよう、セシル」
後ろからかけられた声に驚き、振り向くと不思議そうな顔で微笑むセシル。冷たかった一気に顔が熱くなった。
「珍しいわね、朝弱いあなたが早起きなんて」
「寒かったんだよ……」
ばつが悪そうに頭をかけば、楽しそうにくすくす笑う。彼女は、今日も可愛い。
「……!」
急に吹いてきた冷たい風に、体を縮ませる。セシルが寄ってきたのは、多分俺を風除けにするため。
「ったく……」
「あ、見て!」
恨めしく見上げた灰色の空を指差すセシルの細い指。
灰色の中に、淡い桃色がちらちらと舞っている。
「アマンドの花弁だわ」
「ああ……」
セシルの髪に落ちてきた花弁を取る。薄桃色の奥に見えるほのかな紅。美しいが、風で儚く散ってしまう花。
「冬も、そろそろ終わりかな」
「そうかもしれないわね」
春を告げる花弁は、ひらひらと風に舞っていた。