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 抜けるような青空によく映える白亜の城。国王である少年は窓辺に立ち、閉ざした瞳でぼんやりと空を眺めていた。聞こえてきたノックの音に声を返せば、小さな音を立てて扉が開かれた。
「失礼します」
 落ち着いた声に纏められたブルーブラックの髪のメイド。紅茶と菓子を乗せたトレイを手に佇んでいる。
「お茶をお持ちしました、エーデル様」
「有り難う御座います、サフィロ。そこに置いて下さい」
 金色の髪を煌めかせ、エーデルは自らの近くにあるテーブルを示した。丁寧な所作でカップに紅茶が注がれていく。柔らかな香りに、浮かべられた笑みが深くなった。そんな表情を横目に、サフィロは唇を開く。
「エーデル様、戦争が始まるそうですよ。城下ではもっぱらの噂です」
「そのようですね」
 さも自分とは遠い世界の話であるように、カップに口を付ける横顔に眉を顰める。
「国内に徴兵令が出されました。おそらく、近年ではなかった規模のものになるでしょうね」
 サフィロは、唇を噛んだ。薄く笑んだ表情に、苛立ちを覚える。
「……あなたは、この戦争をどうお考えですか?」
 カップをソーサーに置き、エーデルは再び窓辺に立つ。手を後ろに組み、空を見上げた。
「そうですね……出来るなら、したくはありませんね。無闇に人の命が奪われる事は、無い方がいい」
 その言葉は、ひどく夢見がちなものだとサフィロは思った。そして、無責任なものだ、とも。
 サフィロが見る限り、エーデルは自分から動こうとしない。そのくせ夢見がちで、理想とするものがあるにもかかわらず行動には一切移さない。子供が語るような言葉を耳にする度、サフィロは唇を噛んでいた。この人には実行に移せるだけの力があるはずなのに、と。
「お前はどう思うのです」
 顔を上げてみると、相変わらずの笑みを浮かべるエーデルの顔。サフィロも窓の外に視線を移した。
「私は……守りたいものがあるなら、自分の手で守らなければならないと思っています」
「そのためなら、戦うことも辞さない、と」
「……はい」
 サフィロのブルーブラックの瞳が真っ直ぐにエーデルを捉える。エーデルは、強い意志を持つそれから目を逸らしてしまう。口元に浮かぶ笑みに自嘲の色がついたように、サフィロには見えた。
「強いのですね、お前は」
 サフィロが見る限り、エーデルは今の自分を良しとしていないように思えた。五年前、エーデルの父である先王が崩御し、まだ十三歳であったエーデルを補佐するべく元老院が動き出した。大臣格であった白髭の老人、ゾイレを中心に、十人の権力者が集ったものである。現在でも政治に関する決定権の全てを握っており、自分が何か出来る訳ではないのだと、自分はお飾りの王なのだと、サフィロはエーデル自身の口から聞いている。
 だからこそ、サフィロは不快感を抱く。微笑みの下に隠した本心を、少しでも知ってしまった以上。他人事のように戦争を語る主人が、許せなかった。
「ほら、サフィロ。空が青いですよ」
 きっと、この青は誰かが抱いた哀しみの青なのだろう。昔、故郷で聞いた言葉を思い出し、サフィロもまた、空を仰いだ。